失踪

フランス語のレッスンに行ったとき、
先生が急に先生と知り合った語学学校の話を始めた。
何かな?と思ってよく聞いてみると、
同僚の先生が突然職場に来なくなった、
家ももぬけの空でまったく行方がつかめないというのだ。
その先生は50台の独身女性で、
身内は痴呆が始まって病院で生活している
おばさん一人だけだという。
もちろん、同僚の先生たちは警察に届けたのだそうだが、
警察では身内以外に捜査結果を教えてくれないのだそうだ。
万が一病院などに収容されていても、
その居場所を教えてくれない。
だから、本人が連絡をくれるまでひたすら待つしかない。
(フランス語教師フランソワーズより)

日本では身よりのない人が行方不明になった場合、
その親友も身元引受人になれないのだろうか?
警察も犯罪の可能性を恐れているのかもしれないが、
これではどうにも探しようがないのも事実。
フランソワーズの勤めている語学学校の校長先生が
身元引受人として捜索願を出したのだそうだが、
あまり旗色がよくなさそうだった。
でもこれじゃあもし犯罪に巻き込まれていたり
自殺していたりしたら、見つけようがない。

失踪した同僚の先生は
普段は5分の遅刻でも連絡を入れてくるような
几帳面な性格だったと言うのだが、
今回は家のテーブルの上に遺言があったというので、
ここまで聞いたら「あああ、犯罪ではなくて自殺かな?」と
思うのが自然だろう。
フランソワーズもきっとそう思っていたんだと思う。
でもまったく入ってこない情報を求めて
メトロの構内に張り紙したりしていたのだという。
おそらく私も顔を知っている先生だったので、
他人事とは思えず、鳥肌が立った。

失踪したのはクリスマス直前だったが、
ちょうど一ヶ月くらいあとのレッスンで
先生が自殺体で見つかったことを教えてくれた。
フランソワーズは知らなかったとのことだが、
同僚の先生は不治の病にも冒されていたらしく、
未来に絶望しての自殺だったのではないか、とのことだった。
フランスではこういう失踪が本当に多いのだそう。