青天の霹靂〜退去通知〜

それはさわやかな初夏のある日だった。
たまたまその日は日本からパリに遊びに来たAさんが
わざわざ我が家に寄ってくださって楽しいひとときを過ごし、
まさに帰ろうとしているそのときに玄関のベルが。
聞いてもあいかわらずなんと言ってるかわからず、
「poste?」と聞いたらそれらしいことを言っていたので、
書留か何かね、と気軽に出て行った。
一見郵便配達のようで、手紙を持っていたので
やっぱり書きとめかと思ったが、
「ムッシュウ○○は在宅か?」とダンナの名前を言う。
「それは夫です。今いません」と答える。
普通書き留めを受け取るときにこんなやりとりはないのだが、
さらに「あなたは配偶者か?」と聞かれた。
「そうだ」と答えるものの、
こんな細かいことまで聞かれたことはない。
一体これは何…?
受取人(つまり私)の名前をフルネームで聞き取り、
記名して帰っていった。

すぐに開けてみるとcongeの文字。
congeってあのconge?
つい最近フランス語の授業でprendre congeっての、やったよ!
さよならすることだよ!!
何をさよならするんだ?
震える手で手紙を凝視する。
家の大家さんの名前、11月中旬までに家を出るようにとの文句、
次の家探しを手伝いますという不動産屋の言葉、
見慣れた不動産屋の名前。
…大家さんが帰ってくるんだ…
ようやく状況が飲み込める。

もともと3年契約で借りていた家だったが、
大家さんは我が家と同じく駐在で他の国にいたので、
まだ帰ってこないと思い込んでいた。
てっきり契約を更新するのだと思っていた。
そうだよね、大家さんだって帰ってくる日があるんだよね…。
気づかってくれるAさんを見送ったあと、
もう一度辞書を引きながらじっくり手紙を読む。
最初の読みで間違っていないようだ。

期限まであと半年しかない。
おまけにもうすぐ夏休み。
家探しなんてできるんだろうか。
学校は?引越しは?
せっかく庭に植えた花が咲くのを見られないかもしれない。
その日は何もする気が起こらなかった。