初練習

引越しが決まって越境通学することも決まって、
私は毎日運転しなければいけないことになった。
その開始日も刻々と迫っていることも分かっていた。
しかし、やっぱりフランスでの運転は怖いので、
練習を先延ばしにしていた。
もう新学期まで一週間もない。

そんなある土曜日、パリまで出かけることになって、
いきなりダンナは私に運転席を明け渡した。
「今日は運転してみろ」と。
えーーー!いきなりっすか?
心の準備ができてないんですけど?
それに私は会社から借りている車を使う予定じゃなかったか?
今日乗ってる車は家族仕様のmultipla。
常日頃「この車は大きい」とダンナに聞かされている車だ。
初運転でこれはちょっとやめてくれ。
という私の願いもむなしく、運転することになった。
「MTってどうやって走り出せばいいんだっけ?」
「…大丈夫か?…」
一抹の不安が漂う。

それでも、しばらくすると調子を取り戻した。
なかなかいい調子だ。
しかし気をつけていないと、ものすごく右寄りになっている。
日本では右側が運転席で、
「自分が道路の中心になるように」運転するよう言われていた。
その感覚で左側に座っているのに道路の真中にくると…
同考えても右に寄りすぎている。
そんな調整もしながら、やってきました、凱旋門回りのロータリー。
初運転でいきなりこの超難所。
幸いにもここの怖さが分かっていないという大胆さで乗り切る。
もう少し運転を経験したあとでは別の怖さがあるだろう。
どうにか目的地に着く。
精神的にゆとりを無くしていた私はここでギブアップ。

後日この話をナタリーにしたら、
「初めての運転で凱旋門の周りを走ったの?
私だってパリに車で行ったことはないわよ。
運転するのは家の近くと郊外だけ。
パリの運転は怖いわ」
と言われてしまった。
やはり初練習にしては無謀すぎたようだった。
それ以後、ナタリーの言葉を守り(?)、
パリでの運転は固く慎んでいる。