家で和食

お客さんが来ることになった。
何を作ろうかあれこれ考えていると、
日本食が好みだというので、
じゃあ和食を作ろうかということになる。

我が家はヨーロッパに来て以来、家で和食を食べていない。
もう少し正確に言うと、
おそばやうどんは食べたことがあるが、
炊いたご飯や味噌汁を食べていない。
日本のルーを使ったカレーを作ったときも
ご飯はこちらのもの、つまり茹でて水を切った長粒米を使った。
オランダでは国際規格の炊飯器を譲ってもらっていたものの、
一度も使ったことがなかった。

そういうわけで家には和食を作るための材料が何もないので、
初めて日本食材店に買出しに行った。
店であれこれ見ていると、フランス人男性といっしょに来ていた日本人女性に
味噌の賞味期限について意見を聞かれる。
その次にはフランス人女性にフランス語で「これは○○か?」と聞かれる。
日本のものだったら想像力を働かせて何を聞かれているか考えるが、
残念ながら他のアジアの国の食材だった(この店はアジア諸国の食材があった)。
分からないと答えた。
「私は店員じゃないぞー!」

家で作ったのは
肉じゃが、鶏のから揚げ、餃子、ご飯、味噌汁。
(他にもコロッケやサラダなども作ったが、
揚げただけ、洗っただけ、切っただけなのでカウントしない)
肉じゃが、日本ではしょっちゅう作っていて、
一応私の十八番に入れてもいいメニューだったが、
あまりに久しぶりに作ったためか、
作り方を忘れていた。
しょうがないので本を見ながら作った。
鶏のから揚げ、生まれて初めて作った。
から揚げ粉をまぶして揚げるだけだと書いてある。
本当にそれだけでできるのか心配だった。
でもできたのでびっくりした。から揚げ粉って便利だ。
極めつけは味噌汁、
どのくらいの濃さに作るか分からなくなっていた。
「こんなもんかな?」と味見して思ったが、
あまりに味噌が余っていたので不安に思い、
ダンナに味見させた。
「うすい」。
結局最初に計った分だけ溶いてちょうどだった。

唯一問題なく作れたのは餃子だった。
一心不乱に皮を包む。
窓の外はどこまでも青空、
隣の家のきれいな庭、
鳥のさえずり、木の葉の間をぬける風。
見慣れたフランスの光景なのに、
それを見ながら餃子を作る自分がいる。
私は外国人だ。
妙に実感させられた瞬間だった。

子供たちは久しぶりのおにぎりを妙に喜んだ。
短粒米がある間、つかの間の和食を味わえる。