アルプス

我が家が行ったユングフラウヨッホ周辺は
環境保護のため、ガソリン自動車が入れないところが多い。
でも車での旅行の場合はそれでは困る。
もちろん入れるところには駐車場があるので、
そこに停めてから目的の村に行くことも可能だけど、
それが宿泊のためだとけっこうやっかい。
荷物と子供抱えて登山列車は想像するだけでも辛い。
というわけで、我が家は車で入れるぎりぎりの場所、
ラウターブルンネンを宿泊地に選んだ。

登山列車の発着点になっているので、
思っていたよりはにぎやか。
でも、町自体は観光客が大挙して押しかけるような
場所ではないので、
のんびりと滞在を楽しめる。
ホテルからはシュタウフバッハの滝を望むことができた。

水煙のような滝です。


ホテルの窓からは山の端から昇る太陽、
朝日に照らされる万年雪、
そして山肌を上っていく登山電車を眺めることができた。
これだけでも十分楽しい。

頭の中はリヒャルトの「アルペン(※1)」が
鳴りっぱなしよ。


初日はまずユングフラウヨッホを目指す。
周辺の山々には登山電車やロープウェイが張り巡らされていて、
それでいろんなところに行ける。
いちいち乗車券を買うのは面倒だからか、
5日間乗り放題で175スイスフランというパスポートが一般的らしい。
でもうちはたった二日間しかいないので、
パスポートを買うのはもったいないかも。
というわけで、ユングフラウヨッホまでの単独券を買った。
でもこれでも一人150スイスフランもした。
パスポートを買っても悪くなかったかもしれない。

「9ヶ月の赤ちゃんがいるんですが、
終点まで連れて行けますか?」と訪ねる。
ダメと言われるのを覚悟していたが、
あっさり「いいよ」と言われて拍子抜け。

これに乗って行きます。


ラウターブルンネンからユングフラウヨッホまでは
一気に行けるのではなく、
まずは途中のクライネシャイデックまで行く。
そこでユングフラウヨッホ行きの登山電車に乗り換え。
クライネシャイデックには別方面からも電車が来る。
ここも草原が広がり、けっこうのんびりできるところなのだ。
でもここでもすでにちょっと頭はくらくら。
空気が薄いのだ。

クライネシャイデックから
ユングフラウヨッホを見る。


この駅ではたくさんの日本人観光客がいた。
私たちが乗っていた電車にはほとんどいなかったところを見ると、
別ルートを使う人が多いのか?
しかもハイキング仕様のおじさんおばさんばかり。
家族連れはほとんどいなかった。
うちみたいに小さい子供連れ、
そして山をなめてるのか!といった感じの軽装に、
お世話焼きおばさんからため息が漏れていた。
でもうちはこれでも一応
高い山に登るからとはおるものを持ってきたし、
足を覆うように長ズボンをはかせて
靴下とスニーカーまで用意してきたのだ。
他の外国人観光客の中には
タンクトップやキャミソール一枚、短パンで来るつわものもいたのだから。

さて、クライネシャイデックからいよいよユングフラウヨッホへ。
今まではもちろん山の斜面を走ってきたのだが、
ここからはトンネルに入る。
電車も今までとはうって変わって
液晶のインフォメーション画面つきの豪華版。
(でも帰りは普通の電車だったから、
たまたまこのときは新車に乗れただけらしい)
標高2000メートルのクライネシャイデックから、
3000メートルあまりの終点まで、
一気に駆け登るらしい。
気のせいかだんだん寒くなってくる。
液晶に表される気温も3℃、2℃とどんどん下がってくる。
それと共にだんだん頭が痛くなってくるし、
くらくらもする。
なんだか吐き気もする。
やっぱり空気が薄いんだろうか。
終点までは約20分ほど。
この高度をあがるのには速すぎるのかも知れない。

降り立った駅は本当にひんやりしていた。
展望台から氷河を眺めたあと↓、



雪原に出て万年雪を触る。
見晴らしのよいレストラン、なんていうのもあったけど、
そこでは食べず、「氷の宮殿」を見る。
文字通り氷の中をくり抜いたスペース。
氷の上を歩くとき、普通の靴でも平気だけど、
氷ではない部分から氷の上に乗るときに
すべる人多数、要注意。
寒いし気持ち悪いしで、早々に下山する。

再びクライネシャイデックでひと遊び。
ラウターブルンネンに行く電車が来るまで
高原の花畑で休憩。



ところがうっかりここでゆっくりしていたら、
クライネシャイデックから下山する電車は
夜7時が終電ということが判明。
それに気付いたのが6時の電車が出たあとだった。
6時の次が7時の電車。
いくら夏で日が高いとはいえ、
山での行動は朝が勝負らしい。
(これはその後至るところで痛感する)
線路沿いにハイキング用の道があるので、
そこを歩いて次の駅ヴェンゲンに行こうかとも考えたが、
子連れで歩いて次の電車をヴェンゲンで捕まえられるか
保証はないし、
途中で歩けない、抱っこ~なんて言われたらおしまい。
7時の終電を待つことにした。

ここでお決まりのゆりちゃんの「やっほー!」。
そんなに大きな声を出さなくても山びこが聞こえるのはさすがアルプス。
しかし何度かやっていたら突然ゴロゴロと
雷のような音がしたと思ったら、
山の一部が崩れて落ちたよ!!
山崩れ、雪崩というほど大規模ではなくて
石がカラカラと落ちた程度だけど…。
でもやっほーで共鳴して山を破壊したかと思って驚いた。
その後、何も言わなくてもまた崩れたところがあったので、
関係ないとは思うけど。

終電に乗っているとどこからかベルの音。
むむ、これはカウベルでは…?
探すと線路沿いの道にたくさんの帰宅途中の牛。



それぞれのカウベルがカランカランと鳴っていて、
まさにマーラーの交響曲第6番の世界(※2)。

二日目、ラウターブルンネンの駅前にあった
ミューレンという村行きの急角度のケーブルが気になるので、
それに乗ってみる。



ほとんどがけを上がっているような感覚。
線路の横に避難用?の階段があるのだが、
ここでケーブルが止まってほしくない。
終点がミューレンかと思ったら、そこで登山電車に乗り換え。
今度はほぼ同高度を水平に走って行く。
で、着いた先がミューレンだった。
駅前のレストランで食事した後、ぶらぶら歩く。
村のほぼはじっこにさらにケーブル乗り場がある。
「乗ってみる?」
どこに行くのか分からず乗る。

着いたところはアルメントフーベル。
雪をいただいた山々を眺めながら、
草原で遊べる。



ここからハイキングをスタートするグループもあった。
駅の裏の小高い丘を登ると、
そこからハイキングする人たち、
絶壁にしがみつくようにして草を食む山羊、
(まさに「ハイジ」のペーターみたいだ!)
山羊がつけている鈴の音がかすかにカランカランと聞こえる!
頭上を通り過ぎる雲の陰が山に映る。
夢のような世界。
ここの空気のおいしさは格別だったことを付け加えておこう。
空気は持って帰れないねえ。


(※1)リヒャルト・シュトラウス作曲「アルペン交響曲」
アルプスの日の出から日没までを描いた傑作。
音での情景描写がとてもうまくできています。
写真を見ながら聴いてもイメージわきます。

(※2)グスタフ・マーラー作曲「交響曲第6番」
第一楽章でカウベルが使われています。
これも必聴。

しかしこの風景を音楽にしたい気持ち、
よく分かるよ。